不眠症の治療
不眠症の治療は、原因を見極めて慎重に進めていくことが大切です。身体的原因や精神医学的原因で起こってくる不眠の場合、原因疾患の治療を進めることで不眠は解消します。薬理学的原因による不眠の場合は、原因薬剤の特定と、薬剤の変更や原因物質摂取を控えることで不眠は解消します。
どの原因で起きてくる不眠についても、次のような対処が効果的であるとされています。
1 睡眠衛生指導 「睡眠障害対処12の指針」
睡眠は睡眠前の活動時間や浴びる光の強さ、生体概日リズムなどにより常に調節を受けています。こうしたヒトが本来もつ睡眠調節機構が有効に作用するように配慮すべき指針が厚生労働省の研究班から示されています。
①必要な睡眠時間は人それぞれです。日中の眠気で困らなければ十分です。 |
②入眠前にはカフェイン摂取や喫煙を避け、自分なりのリラックス法で眠りに就きましょう。 |
③眠くなってから床に就きましょう。就寝時刻にこだわり過ぎないようにしましょう。 |
④同じ時刻に毎日起床しましょう。 |
⑤よい睡眠をとるために、朝起床後にまぶしい光を浴びましょう。 |
⑥規則正しい食事と、規則的な運動習慣を心がけましょう。 |
⑦昼寝をとるならば、午後3時までの短時間(30分以内)にとどめましょう。 |
⑧眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きにしましょう。 |
⑨睡眠中の激しいいびき、呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感があれば、睡眠医療専門機関に相談しましょう。 |
⑩十分に眠っても日中の眠気が強いときは、睡眠医療専門機関に相談しましょう。 |
⑪睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもとになります。 |
⑫睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全です。 |
2 薬物療法
睡眠衛生指導、生活改善を十分に行なった上で、必要な場合は、慎重に薬物療法を行なうこと、とされています。入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒など、不眠症状に応じて睡眠薬は使い分けられます。
入眠障害 | 超短時間作用型、短時間作用型 |
中途覚醒 | 中間作用型 |
早朝覚醒 | 中間作用型 |
薬物療法の留意点
現在、不眠症の治療に用いられる睡眠薬の多くは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬といわれる睡眠薬です。従前睡眠薬として用いられていたバルビツール系睡眠薬と比較すると、依存性や耐性が少なく、誤って大量に服薬した場合でも呼吸抑制を起こし生命に関わる深刻な事態に陥ることが少ない安全な薬剤とされています。しかし、生命に関わるような事態を引き起こすことが少ない薬剤でも、不適切な使用により深刻な事態を引き起こします。
長短時間作用型・短時間作用型睡眠薬では、連用により日中不安を引き起こすことが知られています。そのため、治療量の睡眠薬でも服薬を中止すると強い不安が生じるようになり、服薬が止められなくなる常用量依存が生じる怖れがあります。また、長時間作用型睡眠薬では服用1週間程度で血中濃度が定常状態に達するため、日中も眠気・ふらつき・認知機能低下を来しやすくなります。現在では、メラトニン受容体作動薬を始めベンゾジアゼピン系睡眠薬以外の薬剤が不眠症の治療に用いられています。ベンゾジアゼピン系薬剤に頼らない不眠症治療という選択も大切です。